アダルトチルドレンと聞くと、大人になりきれていない子供のような人、というイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、そうではありません。
アダルトチルドレンという言葉は、元々、アメリカで生まれたもので、アルコール依存症の親に育てられ、大人になった人を意味するものでしたが、今では、「機能不全家庭」で育てられ、生きづらさを抱えて大人になった人も含めたものとなっています。
「機能不全家庭」とは、アルコール依存症や様々な依存症を持つ親がいる家庭、親からの精神的・身体的・性的虐待、育児放棄(ネグレクト)、両親や親族による日常的な対立、親の自殺などによる喪失体験、サラ金の取り立てに追われる、生活困窮、などにより、子育てや日常生活が機能していない家庭のことです。
その他、常に否定する、兄弟や周りと比較する、本当は生みたくなかった、男の子(女の子)だったらよかったのになどという言葉の暴力、親の気分で家庭内の雰囲気やルールが安定しない、過剰なしつけや過保護・過干渉、感情や発言の抑圧、親の価値観や信念の押し付け、過度の期待、条件付きで愛情を示す、なども含まれます。
「~するな」「感じるな」「考えるな」「信じるな」などの暗黙のルールが敷かれたり、禁止令やドライバーを与えてしまっていることも多くみられます。
最近では、インターネットや書籍などで、そのような環境で子供を育てる親のことを「毒親」と表現されることもあります。
そのような家庭問題を持つ中で育つことにより、子供にとって必要な「愛情・保護・安心」を得られないまま大人になり、精神的な苦悩や生きづらさを抱えている人がアダルトチルドレンです。
アダルトチルドレンという言葉は診断名ではなく、本人が自認するかどうかのものです。
自分の生きづらさが、自分の性格の問題ではなく、家庭から生まれたものだと知ることで、自分を責めたり、漠然とした生きづらさや苦しみから解放されることに繋がる、そのための言葉だと考えています。
では、具体的に、機能不全家庭で育つと、どのような生活を強いられ、どのような想いを抱えて生きていくことになるのでしょうか。
子供は親や育つ環境を選べず、どんな親の元や環境下であっても、ある程度の年齢に達するまでは自立する生活力がないため、その親元や環境から逃げ出すことはできません。
そのため、「この家に自分が存在してよいのだろうか?」「自分の居場所はどこなのか?」「存在していいとしたらどう振る舞うことがよいのだろうか?」と感じながら、自由奔放な子供らしくあることよりも、その環境でどう生き延びていくのかを考え、役割を持つようになります。
● ヒーロー(英雄)
勉強やスポーツなどある分野において、親や周りの期待に応えたり、親の虚栄心を満たしたり、家庭のバランスを取るために、「優秀な子」として、頑張り過ぎたり、努力し続けるタイプ。期待に応え続けなければならないため、失敗や挫折を怖れる気持ちが強く、常に頑張ることを自分に課してしまう。それにより、達成感が得られにくく、完全ではない自分には価値がないという自己否定感が強くなる。完璧主義で、自他ともに厳しくなりがち。
●スケープ・ゴート(いけにえ)
ヒーローとは反対で、問題行動を起こしたり、反抗的・攻撃的に振る舞い、「ダメな子」「問題児」として否定的な役割を担う。自分だけが原因かのように思わせることで、家族が抱える本来の問題から目を逸らしたり、家族のストレスや負の感情の捌け口となることで、家族のバランスを保とうとする。無価値観・自己否定感が強く、傷つきやすく、依存症や犯罪など自暴自棄な生き方になることも多い。
●ロスト・ワン(いない子)
存在を消し、目立たないようにすることで、家族の争いごとに巻き込まれたり、傷つくことから身を守る。「手がかからない子」でいることで家族を安心させる役割。おとなしく、自己主張をしないため、放っておいても大丈夫と思われたり、気づかれなかったりする。自分の存在意義を実感できない、自分は重要ではないと孤独感を抱えがち。感情や意思を出すことやコミュニケーションに諦めを感じてきているため、抑うつ的で、引きこもりになることも。
●プラケーター(慰め役、小さなカウンセラー)
家族の中で落ち込んだり、疲れたり、傷ついている人にそっと寄り添い、慰めたり、励ましたりする、家庭の中の小さなカウンセラーのような役割。プラケーターは女性に多いとされ、特に母親の愚痴や不満を聞き、慰めることが多い。子供が親のような役割をしている親子逆転になっている。大人になってからも周りからの相談を受けたり、頼られることが存在意義となったり、自分へ向けられる愛情や優しさを受け取れなかったりする。
●ケアテイカー(世話役・小さな看護師)
小さい頃から、親の代わりに家族の介護、小さい兄弟のお世話、家事を手伝うなど、積極的・献身的に家族の世話を担ってきた、家庭の中の小さな看護師のような役割。誰かのお世話、誰かに尽くすことが自分の存在意義となっているため、大人になってからも、子供への過干渉や、他人に尽くし過ぎるなど、共依存関係に陥りやすい。認めて欲しい、褒めて欲しい、感謝されたいなど、見返りを求める思いがあるため、それが満たされないと、怒りになる。
●イネイブラー(支え役)
自分を犠牲にし、親に献身的に尽くすが、例えば、アルコール依存症の親のためにアルコール買ってきたり、相手のためにならない、問題行動を悪化させる尽くし方をする。「偽親」とも言われ、小さい頃から、家事をしない親に代わり家事全般を担っているなども。困った人を助けることに存在意義を感じ、嫌われることや、見捨てられることへの不安が強いため、問題がある人に惹かれ、相手の成長を妨げて尽くし、離れられず、共依存関係に陥る。
●道化師(ピエロ、ひょうきんもの、ペット)(支え役)
家族が暗い雰囲気になったり、争いが起きそうになると、ふざけたり、おどけたり、冗談を言うことで、家族の緊張感を和らげたり、家族内の問題から注意をそらす役割。常に空気を読み、人の顔色を伺い、雰囲気が悪くならないよう明るくひょうきんなキャラを演じている。そのため、自分の本当の感情が分からなくなったり、本音が出せなくなる。かわいがられ、ペットやマスコットのような存在ではあるが、その奥には嫌われたくない思いや、悲しみを抱えている。
●プリンス・プリンセス(意思のない人形)
親からまるで人形のように溺愛され、親の理想や期待を押し付けられ、親にとって都合のいい人格や意思を持つことを要求される。自分らしさや自分の意志を否定され続け、周りに合わせて生きることに存在意義を感じるため、自分の意思や自己がなく、自己肯定感が低い。自主的に考えたり行動すること、責任を取ることが苦手。言いなりになってしまうため、DVやモラハラの被害を受けたり、流されやすいため、詐欺や悪徳商法に引っかかってしまうことも。
このような役割を担うことになった子供は、本来ある純粋で楽しく奔放な子供時代を過ごすことが出来ず、「親の望んだ通りにしないと嫌われる」という恐怖心に苛まれ、家庭内で安心感を得られず、健全な愛情を注がれないまま育つことになります。
・自己愛が発達しない、他人と擬似的親子関係を形成したり依存関係になる、他人を信じることができない、人間関係が不得意、孤立しやすい。
・その他、自己肯定感が低い、ポジティブな自己イメージを持てない、怒り・不安・絶望の感情を抱きやすい、完璧主義になりやすい。
更には、親と同じ行動・言動を自分の子供にもしてしまう機能不全家庭の世代間連鎖を引き起こしたり、親と似たような問題のある人と恋愛や結婚をするなどの、深刻な影響を及ぼしてしまいます。
このように説明をすると、こんなの誰にだって当てはまる、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、時と場合によっては、経験したことのあるものも含まれると思います。でも、それが時々なのか、いつもその状態で、その役割を担うことが当たり前となってしまい、本来の自分なのかどうなのか分からない程であったり、その経験により生きづらさや苦しさを感じているかどうかが、アダルトチルドレンである人とそうでない人との違いであり、重要なポイントだと思います。
自分の生きづらさ、人間関係における歪みがどこから生まれているのか…。それを知り、自認する。過去を変えることはできませんが、知ること、自認することで、今後の人生をどう生きていくのか…。自分らしさを取り戻し、人生はつらいことばかりではないと実感し、歩んでいけるサポートをしていきたいと思います。